開戦時のフランス野戦軍総司令官兼参謀総長はヨセフ・ジョフルでプラン17と呼ばれる作戦計画は彼の手になるものだった。
計画の骨子は1週間で現役5個軍、22個軍団・44個師団を動員する。そして最終的には3週間で300万人、70個師団の大陸軍(徴兵軍の総動員後の陸軍をグランダルメー・大陸軍と呼んだ)を一挙に建設する、というものだ。
そしてそのうち2個軍半10個軍団、40万人で、動員発令後1週間で独仏共通国境を突破、アルザスロレーヌに殺到し失地回復をなす。その後うまく行けばメッツを占領しそのままの勢いでライン川を渡河し、最短距離を通ってベルリンに到達する。
敵に遭うことは想定しないのはシュリーフェンプランと同一だ。ただしドイツが設置した国境の防衛施設を考慮していない。とにかく係争地域であるアルザスロレーヌを占領し、あとは定規で直線となるように進むだけと、分かりやすい。
そしてこの計画はシュリーフェンプランと異なり、攻勢のための作戦というより動員そのものの計画が中心である。すなわちどこを攻撃するかは、敵の動向により決定するという柔軟性があった。当時フランス北部は鉄道が集中していた。総路線距離は現在より多いという。このため部隊の移動は極めて容易だった。
そして誰も戦争について長期戦を考えなかった。すなわち最長でも6ヶ月以内に終了する、と考えられていた。そして攻勢は常に成功し防御にまわった方は敗北すると。この楽観は各国とも経済的に長期戦に耐えられないという見解に従ったものだ。
もちろん20個師団はまずアルザスロレーヌに飛び込むのだから純然たる防衛計画ではない。むしろ攻勢に出た敵の弱点を一挙につこうという計画だった。そもそも大陸軍の規模は(後備を含めず現役・予備で)300万人、70個師団に達する。このうちの最も始めに集中が終わる20個師団でアルザス・ロレーヌに向かう予定のみを決めていた。
そして連続攻勢姿勢を維持すれば勝利は確実だという信念に基づいていた。すなわち短期・連続攻勢が作戦の要諦だから、アルザスロレーヌ戦の後攻勢のため使える20個師団でどこかで連続して攻撃に使えばよい、と考えていた。その意味ではアルザスロレーヌ攻撃が陽動作戦といえるかもしれない。
フランス軍の当初配置
実際には13号命令でアルデンヌの森に攻撃をかけ失敗した。小モルトケはこのアルデンヌ攻撃を事前に見抜き、兵を厚めに配置した。一方フランスはドイツ軍の総兵力の見積もりを誤った。フロンティアの戦いの敗北は、ドイツ軍の計画が上回っていたことを示す。ただジョフルはシュリーフェンプラン(原案)の漏洩で、原案のみ知り改正案を知らなかった公算が強い。
ジョフルの作戦に影響を与えたものとして別にエラン・ビタール( Elan Vital )という仏軍独特の考え方がある。人口及びその増加率でフランスはドイツより劣っている。数での劣勢はその攻撃的精神で補わなければならない。あらゆる点で攻勢をかけ、敵に攻撃をかけよ。戦闘の帰趨はいちに士気にかかっている。敵を打倒する意志に欠けた方が敗北する。概して精神論の傾きを持った。
Elan
Vital(エラン・ビタール)
1912年フランス議会で歩兵の戦闘服について論争があった。フランス兵は当時赤の帽子、青の上衣と赤のズボン(パンタロン・ルージュ)といういでたちだった。これは1830年以来変わっていない。当時はライフルの射程距離が短く、結果として両軍が密集しており迷彩の必要がなかったのだ。既にイギリスはカーキ色、ドイツは灰緑(フィールド・グレイ)色を採用していた。ライフルの射程距離は2000メートルまで伸びていた。
議会の公聴会で新規の戦闘服が検討された際、前陸軍大臣エティエンヌは、「赤いズボンの廃止だと、パンタロン・ルージュこそフランスそのものだ。」と絶叫した。そして迷彩化は見送られた。フランスは他のどの国とも同様に数多くの失敗をしたが、これは最も高くついた愚行の一つだろう。共和制では戦闘服を決めるのもなかなか困難だ。
ジョフルの考えの基礎をなすものは攻撃精神と短期決戦でこれが仏軍の当初の作戦を決定した。そして仏軍は開戦直後のフロンテイアでの戦いで14万人近い戦死者を蒙る結果となった。しかもそれはフランス正規軍の精華であり最良の部分だった。
それではシュリーフェンプラン(改)を、マルヌ川まで侵攻させずに失敗させる策はあっただろうか。ドイツの作戦重点は右翼だから、これを包囲殲滅すればよい。そのためにはタンネンベルグ包囲殲滅戦のごとくフランス領内にある程度引きこまねばやはり全体の捕捉は不可能だろう。そしてそれがためには当初防御に徹し内線移動のみを行うという事になる。だがやはりエランではこのような作戦はとれないだろう。
フランス軍兵士出征(パリ10区ノール駅に向かう兵士)

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